2025年の10月頃、兄から一本の電話がありました。
「門中墓(むんちゅうばか)の当番をやってくれないか?」
門中とは、同じ先祖から枝分かれした父系の血縁集団のこと。いわば「遠い親戚の大所帯」です。そして門中墓は、その親族たちで共同管理している大きなお墓。自分自身で新しくお墓を建てない限り、私もいずれはそのお墓に入ることになります。
これまで当番は、生前は父が、その後は長男である兄が何回か務めていました。昔から「各家系の長男が引き継ぐもの」という暗黙の了解があったようで、次男である私には縁のない話だと思っていたのです。
しかし、最近はどこも担い手不足。ついに次男の私にまでお努めが回ってきました。当番は2人体制なのですが、もう1人の方も今回が初めてで、同じく次男とのこと。「ついにそういう時代になったんだな」と実感しました。
とはいえ、引き受けたものの「で、当番って何をするの?」と全く見当がつきません。
「お墓の掃除をしたり、誰かが納骨するときにお墓を開けたりするくらいかな?」と軽く考えていたのですが……。
いざ年末に元家(むーとぅやー:門中の本家にあたる直系の家)に集まって説明を聞いてみると、沖縄あるあるというか、「丸1年かけて巡る、拝み行事のフルコース」でした。
1年間の拝みスケジュールを駆け抜ける
沖縄の伝統行事は基本的に旧暦で行われますが、日程は集まりやすいように直近の日曜日にスライドして行うことも多いです。私たちが駆け抜けた2026年の1年間は、こんなスケジュールでした。
- ミッチャヌスクー(新暦1月3日)最初の行事は正月3日の年始の拝み。元家にはヒヌカン(火の神)の香炉のほかに先祖の香炉が7つあり、合計8つの香炉にお供え物(三枚肉・昆布・厚揚げの基本セットとお酒)を捧げます。その後、元家がある南城市大里の周辺の御嶽(うたき)やカー(湧水)、先祖ゆかりの仏壇があるお宅など、計16箇所ほどを巡礼。なんと那覇市おもろまちにまで足を伸ばしました。そこには拝み専用の離れがあり、県内各地の門中が参拝帳に記帳して奉納金を納めていました。
- シチマ(2月ウマチー)& 神清明祭(4月5日)旧暦2月15日のウマチー(収穫感謝の祈願)と神清明祭(カミシーミー)を合同で行いました。ウマチーは基本のお供えにきゅうりと大根の酢の物とご飯が加わります。元家での拝み自体はシンプルですが、清明祭の巡回は沖縄市まで行くため、高速道路を使って大移動でした。
- 5月ウマチー(7月5日)& 6月ウマチー(8月2日)旧暦5月・6月のウマチーも順次執り行いました。
- 七夕のお墓掃除(旧暦7月7日)お盆(旧暦7月15日)をご先祖様に知らせるため、事前にお墓の草刈りや清掃を行います。
- お盆当番2名と元家の方の計3名だけで、新年に挨拶に回った各家のお仏壇へ拝みに行きます。他の行事と違い、お盆の巡回は当番のメンバーだけで回る決まりのようです。
- ミジナリー(9月27日 / 旧暦8月11日)偶数年は「東(あがり)廻り」で12箇所を巡回(奇数年はもっと巡回数が多い「首里廻り」だそうで、今年はまだマシだったようです)。巡回ルートに世界遺産の斎場御嶽(せーふぁうたき)が含まれていたのですが、観光地化されて入場料がかかるため、「中には入らず外から拝む」というスタイル。数年前までは拝みなら無料だったそうですが、このへんの臨機応変さ(てーげー感)が実に沖縄らしくて少し笑ってしまいました。
- 菊酒(10月18日 / 旧暦9月9日)1年間の締めくくりとなる行事。最後ということもあり、門中の方々がたくさん集まってとても賑やかでした。
直面する門中の「高齢化・人数減」とリアルな台所事情
最後の集まりで、門中の方々から年会費を集金しました。
1人あたり完全頭割りで500円(4人家族なら2,000円)。今年の集金額は73,000円だったので、現在の門中の構成人数は146人です。
昔に比べるとかなり減っているらしく、今年かかった年間の支出が約68,000円。ほぼトントンです。これからさらに人数が減っていけば、行事のやり方や支出を見直さないと、門中自体の維持が難しくなっていくという現実も目の当たりにしました。
1年を終えてみて
これまで私にとって門中墓といえば、「年に1回、清明祭で顔を出すだけの場所」でした。
同じお墓に別々の家族が代わる代わる手を合わせに来るものの、自分から見ればまったく知らない赤の他人ばかり。正直なところ、「自分も将来、このよく知らない人たちと一緒のお墓に入るのか……」と、あまり気が進まない気持ちがあったのも事実です。
でも、この1年間、当番として汗を流し、元家の方や門中の人たちと顔を合わせ、一緒にお供え物をして手を合わせていくうちに、皆さんの温かさや気さくさにたくさん触れることができました。
「知らない親戚の集まり」から「血のつながった顔の見える仲間たち」へと意識が変わった1年。
今では、「この人たちと一緒の門中墓に入るのも、案外悪くないかもしれないな」と素直に思えています。
余談
門中の集まりで、最初に参加して驚いたのは、難解な聞いたことが無い方言、「スガイマール」今回この当番自体を差す言葉で、ネットで検索しても出てこないので、もしかしてこの門中だけで使われているのでは?と思いました。あと「うさかてぃ」は年会費のことで、こちらはネット検索で出ていました!
ちなみに年中行事も門中によっていろいろ変わっているかもです。
